老舗旅館の5代目が取った「リスク」 山口県長門湯本温泉復活の裏側をことば化
「ない」と思っていたら、足元に「あった」
山口県北部の山間にある約600年の歴史を有する温泉郷・長門湯本。高度成長期からバブル期にかけて年間39万人の宿泊客を迎えていましたが、近年は訪れる人が減少。老舗旅館の廃業などもあり、危機感が高まっていました。
長門市は、市長の英断で温泉街の中心地を更地にした上で、星野リゾートとともに再生に向けた「マスタープラン」の策定で温泉街の再開発に着手。
一方で、行政と地元事業者が公民連携でまちづくりに取り組む「長門湯本みらいプロジェクト」を立ち上げ、対話型のワークショップを重ねてきました。
そうした取り組みは着実に街に新たな活力を与え、市外からの移住や新規参入、地元商工業者、金融機関などの積極的な取り組みなど、これまでにない温泉街の賑わいが生まれています。
大きかったのは、老舗温泉旅館の後継経営者たちの意識変革。共同でのカフェの経営や、金融機関からの融資を受けての新たな共同温泉施設の建設など、「リスクをとる」攻めの経営があちらこちら見られるようになりました。
一体、なぜ後継経営者たちは「変わった」のか。長門湯本温泉まち株式会社・まちの番頭/エリアマネージャー木村隼斗さんや、大谷山荘当主の大谷和弘さんなどの活動に密着し、地域創生のエンジンとなる地元事業者の意識変革の舞台裏を「ことば化」しました。
「ことば化」実施内容(期間約1ヶ月半)
- 経営者などへのヒアリングによる「変革」の「ことば化」
- 地域の担い手たちへの密着による映像化
- 客観的視点での検証取材
- 映像視聴による検証
- 地域創生先駆者たちとのワークショップ実施
映像制作
「ないが、あるに変わる瞬間」編
ワークショップ当日の様子
属人的レベルからの脱却を目指す地域創生議論の場合、仕組みの話に収斂してしまい、そこに生きる人々の暮らしやその土地の歴史に対する視座が失われてしまいかねません。そうした中、木村さんをはじめ地域の方々の言葉の中には歴史や文化に裏打ちされた大切な価値を見出すことができました。そうした価値の共有は決して外してはならない要素です。
「ことば化」その後
ことば化の中で、木村隼斗さんから出たキーワードは「平和」。コミュニティの閉塞感の中で醸成された不安や不満は、何かをきっかけに疑心暗鬼や排除排斥、やがて暴力に繋がりがねません。世界の戦争や紛争を手当する取り組みの一つに、実は地域創生があるという信念が広く共有されるきっかけとなりました。今の時代に求められている考え方です。